ツンデレラ
昔々、とあるツンドラ地帯にツンデレラという召使(メイド)がいました。
ツンデレラはいつもツンツンしていて、あまり笑いません。ドジばかりしているけれど、決して冷たい態度を崩しません。
なぜなら、ヘマをすると、彼女の雇い主である三人のお姉様方が、優しく微笑んでくださったり、励ましてくださったり、心配してくださったりするからです。
ツンデレラは人一倍、繊細なので、お姉様方が暖かく接して下さるのが、逆につらいのです。
『…もっと素っ気なく接してくださったら、どんなに気が楽だろう。』
そんな事をツンデレラは思っているのです。
ある日も、ツンデレラはお姉様の大事なエルメスのマグカップを落としてしまいました。
カップの取っ手の部分が、大きく欠けています。これではお茶を入れる事はできても、危なくて持つことができません。
『…どうしよう。』
もちろん、どうする事もできません。
ツンデレラは内心、自分の失敗にひどく傷つきながらも、スカートの裾を乱しもせずに、壊れたマグカップを持って、お姉様方の前に進み出ました。
そして、表情一つ変えずに、いつもよりも少しばかり低い、冷静な声で、
と言い放ちました。
三大姐(スリーアネゴーズ)は、ニコニコ笑いながら、
『どれどれ、見せてごらん?これなら問題ないよ。あたしらにまかせときな。』
と言って、ツンデレラをどこかに案内します。
『…ここは?』
ツンデレラが尋ねると、三大姐はカンラカラカラと笑って、
『ここはあたしらの実習工場さ』
と答えるのです。
ツンデレラが当惑していると、フワリと肩かかったものがあります。
『作業着、着てね。防火加工布だからさ』
三人のお姉様方は手際良く、目の前の機械を作動させていきます。
ツンデレラの当惑をよそに、三大姐は
『左側で回ってる盤が粗削り用。右で回ってるのは仕上げ用だよ』
と説明してくださいます。
『まずは、あたしがお手本をば』
すると、カツッ、と小気味良い音がして、欠け残っていた取っ手のほとんどが一瞬にして、吹き飛ばされてしまいました。
『後はこうやって、地道に削っていけばイイわけ。そうしたら湯飲みとして使えるでしょ?』
『…すごい、ですね。』
『どーだすごいだろ〜。エヘンプイ』
というわけで、ツンデレラが作業をしようとすると、
『危ないっ』
危うく回転する研磨機で指を削ってしまいそうになったのです。
『ツンデレラ、もう少し気を付けて頂戴よ。そうだ!よく見えるようにこうしとこう』
お姉様は、削りクズが眼に入らないようにするためのガラス版を、大きなルーペに取り付け直して下さいました。
そこでツンデレラが見たのは―
『……!』
それはツンデレラにとって、初めて見る世界でした。粗く削られた陶器の肌目。飾り模様の美しさ。そして何よりも、旋盤にどういう角度で当てたら良いのかが、はっきりと見えるのです!
急に器用になったツンデレラに気が付いた三大姐は、
『もしかして、あんた、眼が悪いの?』
自分が今まで失敗してきた理由が、申し訳なさすぎて頑な態度を崩す事ができなかった、その理由が…!
『…お姉様、わたし……』
ツンデレラは感激と赤面で、いつものツンツンした態度でいる事ができません。
そして、今自分が動揺しているという事実自体に気が付いて、さらに顔が赤らんで来ます。
『良かったじゃない。ドジの原因が分かってさ』
三大姐はいつも通り優しく寛大です。ツンデレラの頭をなでなでして下さいます。
ツンデレラはこの時ばかりは、大好きなお姉様は思い切り甘えたくなりました。
『お姉様、わたし眼鏡が欲しい…。もっと、お姉様のお役に立ちたいから…』
かわいい召使にねだられて、三大姐は
『あたしたちにまかしときな!イイ案配に作ってやるよ!』
と、一目散に眼鏡屋には行かずに、いちから自作の眼鏡を作るべく、ひたすらレンズ研磨やらネジキリやらに励み続けましたとさ。
おしまい☆